今に通ずる昭和の論文

2008.09.16 Tuesday 01:39
くっくり


 
■【昭和正論座】文芸評論家・村松剛「均衡とれた中国報道を」
 昭和48年7月20日掲載(再掲は2008/6/14)
≪機能を果たさぬ大新聞≫

 となりの国、中華人民共和国なるものがどういう状態になっているかについて、日本人ほど片寄った認識をもたされている国民は、自由主義世界では少ないのではないかと思う。実情を知らせるべき任にある新聞の大方が、この数年らい機能を果たしていないからである。

 新聞の批判を新聞に書くということは、日本では仁義にもとるとみなされて、これまではほとんどタブー視されてきた。しかしこの欄は、何をいってもいいということになっているので、あえて書かせてもらう。大新聞はいまは「社会の木鐸(ぼくたく)」どころか、輿論(よろん)を操作する大権力と化し、しかもこの権力には批判者ないし掣肘(せいちゅう)者がほとんどいない。

 二年ほどまえ、アメリカでベトナム戦争の機密文書がすっぱ抜かれ、ニューヨーク・タイムズ紙が国民の「知る権利」について論陣を張ったことがあった。ぼくはたまたま当時ニューヨークにいたのだが、感心したのはニューヨーク・タイムズが、「知る権利」の論に反対する長尺(ちょうじゃく)の投書を、論説のそばに堂々とのせていたことである。

 国家に機密があるのは当たりまえであって、日本は真珠湾攻撃をするまえに、それを国民に知らせただろうか、と投書は述べていた。そういう投書をあえてのせたのは、ニューヨーク・タイムズの自信のあらわれだろう。この新聞の幹部は機密文書を発表するまえに、そのことがアメリカ国民の利害にそむくか否か、検討をかさねたという。

 日本でもそのあとしばらくして、外務省の文書をめぐっての「知る権利」の騒動が起こった。しかしこの方はひろく知られているように、だいぶんお粗末なものだった。アメリカのそれとでは、次元がちがうのである。

≪毛沢東の粛清の実態は≫

 中国問題については、ぼくはもちろん専門家ではない。

 しかし幸いに二、三の外国語が読めるのと、たえず海外に出る機会があるのとで、シナ大陸についての国際的常識程度のことは知っている。その常識によれば、第一に中華人民共和国はじつに政情不安定な国である。

 香港できくと、昨年のシナ大陸からの逃亡者は推定二万人から二万五千人だったという。一昨年は一万八千、そのまえの年は一万五千人ときいたから、年々脱走者は増加していることになる。国境の警備は厳重で、逃亡者は海水が暖かい時期をえらび、一万メートルほどの距離を泳いでくる。

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