「朝鮮紀行」イギリス人女性が見た19世紀末の朝鮮(3)

2009.09.28 Monday 01:12
くっくり



●外国人のあいだで宴会の催されることはなくなった。混迷はあまりに深く悲嘆はあまりに切実で、冬のソウルのささやかな浮かれ気分すら控えられた。王妃の侍医であったアンダーウッド夫人や親しい友人であったウェーベル夫人をはじめ、どの外国人女性も王妃の死を身近な存在の死として受けとめていた。王妃が政治の場で見せた東洋特有の非人道的な性質は、その死にまつわる惨劇が恐怖の戦慄を引き起こしたために忘れられた。(p.364)

●王妃暗殺からほぼ一カ月後、王妃脱出の希望もついえたころ、新内閣による政治では暗殺の状況があまりに深刻なため、各国公使たちは井上伯に、訓練隊を武装解除し、朝鮮独自の軍隊に国王の信頼を得るに足るだけの力がつくまで日本軍が王宮を占拠するよう勧めて、事態を収拾しようと試みた。日本政府がいかに列強外交代表者から非難を受けていなかったかが、この提案からわかろうというものである。しかし井上伯は日本軍が武装して王宮を再度占拠するという方策は、国王の身の安全を確保するという目的のためとはいえ、重大な誤解を受けやすく、またきわめて深刻な紛糾を招きかねないと考え、即答を避けた。列強が日本に対してはっきりと要求しないかぎり、このような発案が考慮されるはずはなかった。電信機が待機し、しかるべき根回しが行われ、一一月七日に北部への旅行に発ったわたしは、平壌に着いたとき、諸外国公使の見守るなかで重大なクーデターが首尾よく遂行されたというニュースが待っているものと思っていた。ところが、日本は井上伯と新公使の小村氏がふたりして働きかけたにもかかわらず、王宮占拠を行わず、訓練隊は相変わらず権勢を誇り、国王は軟禁されたままだった。なかでも日本の干渉を最もつよく勧めたのはロシア公使なのであるから、日本が各国大使の提案を受け入れていれば、現在のようにロシアが朝鮮に対して圧倒的な影響力を持つような事態も避けられたのではあるまいか。たしかにロシア政府は訓練隊を武装解除させて国王を守るよう日本にはっきり要求したのである。その要求を断った日本政府が結果的にロシアに干渉を許してしまうことになるのも身から出たさびといわざるをえない。(p.364-365)

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