GHQ焚書「敗走千里」より支那軍の実態

2009.08.23 Sunday 02:41
くっくり


 「うん、これだけよ……でもなァ、よかつたぞう」
 唇の厚い男は、下を舐めづり舐めづり、淫(みだ)りがましい笑ひを黄色く濁つた眼に浮かべながら、大きな掌の上で翡翠の耳飾りをいぢり廻してゐる。
 「貴様ァ、相變(あいかわ)らず女一方なんだな」銀貨の男は、相手を輕蔑(けいべつ)しながらも、矢張り、張開元の自由にした女に氣を惹かれてゐるらしい。「で、その女は好かつたか? 幾つぐらゐなんだい?」
 「二十ぐらゐかな……そりゃ好い女よ」
 「ふーむ、そんな女が今時分まだこんなところに間誤々々(まごまご)してるのかな……で、そりゃ、どの家だい?」
 「そこの橋を渡つてよ、クリーク*3について左に行つて……」と云ひかけて、張開元は急に警戒し出した。「でもな、その女はもうゐないよ、南京に行くと云つたから…」
 銀貨の男は、さう云ふ張開元の眼を凝乎(じつ)と瞶(みつ)めてゐたが、やがて、はつとしたやうに
 「おめえ、まさか、やつちまやしめえな」と云つて、ぎゅつと、銃劍で何かを突き刺す眞似をした。
 「ううん、勿體(もったい)ねえ、そんな馬鹿なことするもんか」張開元は慌てゝ辯解(べんかい)した。「俺は只、この耳飾りを貰つて來たゞけよ」
 「ふむ、そんならいゝけど……それで、家はどこだい、何か商賣してゐる家か」
 「そんなこと、覺えちやゐねえ、滅茶苦茶に飛び込んだ家だからな……そいで、その女、年寄りの婆さんと、地下室に縮かまつてゐたのよ、婆さん、脚が悪くて、歩けねえらしいんだ」
 張開元は、さう云つて中々女の居る家を教へなかった。何か自分の所有物をでも他人の目から匿(かば)ふやうな態度だつた。
 「ふん、俺ァ女なんかどうでもいんだ」銀貨の男は、ポケツトの銀貨をざくざく云はせながら張開元の前から去つた。
 陳子明は凡(すべ)てを見た。そして、聞いた。彼は、これだけで戰爭なるもの、更に軍隊なるものゝ本質を殘らず把握したやうに思つた。戰爭なるものが一つの掠奪(りゃくだつ)商賣であり、軍隊なるものはその最もよく訓練された匪賊(ひぞく)*4であるといふことである。(p.3-7)

*1 斥候=本隊の移動に先駆けてその前衛に配置され、進行方面の状況を偵察しつつ敵を警戒する任務をいう。
*2 洪傑(ホンチェ)=分隊長の名前。位は軍曹。

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