ノーベル賞をもらえなかった北里柴三郎「ビーバップ!ハイヒール」

2010.10.09 Saturday 02:59
くっくり



 心にあるのは、ただそれだけだった。

 北里は何日も研究室で寝泊まりし、研究に没頭。
 それを後押ししたのは、日本人特有の勤勉さだった。

 その4年後、彼の努力が実を結ぶ。

 「見つけたぞ。正体はこいつだったのか」

 1889年、北里は世界で初めて破傷風菌の純粋培養に成功。
 不可能と言われていた医学界の常識を覆す大発見を成し遂げた。

image[101008-06hakken.jpg]

 仲間の研究員たちは盛り上がった。

 「やったな北里!」
 「さっそく治療薬の開発に取り組もう!」

 『いや、治療薬を作るだけでは意味がないんだ』

 北里は次にやるべき事を見据えていた。

 『治療薬ができても、個人の病気を治すことにしかつながらない。それ以前に、破傷風にかからない予防策が必ず必要になってくるんだ』

 当時、世界中でコレラやペストといった伝染病が大流行。
 そのため、当然のことながら、医学界では患者を治療することだけが医療と考えられていた。

 しかし、北里はその一歩先にある予防に着目。
 病気にかからないための医療を模索していた。

 そんなある日。

 仲間の研究員と街を歩いていた北里が、とある城の前まで来た時……。

 「大きな城だな」
 「キタサト、こんな話を知ってるか。昔、ドイツの貴族は暗殺を恐れて、いつ毒を盛られても大丈夫なようにって、毎朝少しずつ毒を飲んで、その毒に慣れようとしたんだって」
 「毒に慣れる……?」
 「まったく馬鹿げた話さ。笑っちゃうよな」

 ……!!
 時代が彼を揺さぶった。

 『いっそのこと、人体に被害がない程度に破傷風菌を取り込めば、慣れて細菌に対して強くなって行くのかもしれない。よし、さっそく試してみよう』

 こうして北里は再び常識を覆す実験に取りかかる。
 少量の破傷風菌を健康なマウスの体に注入するという、誰も考えたことのない実験だった。

 それを知った他の研究員たちは……。

 「あんな事をしたら、感染して死ぬに決まってるじゃないか!」

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