【記憶せよ12月8日】外国人から見た日本と日本人(16)

2009.12.08 Tuesday 02:18
くっくり


■オリヴィエ・ジェルマントマ=フランス人。作家、フランス国営文化放送プロデューサー。紫式部から三島由紀夫まで多くの優れた日本文化紹介番組を送り出した。フランスを代表する知識人とされる。
「日本待望論〜愛するゆえに憂えるフランス人からの手紙〜」(1998年発行)より

 人間精神は、人類史のなかに不変なるものを求めようとするものですが、それは同様に、不二なるものに感動する傾向を持っています。神風特攻隊員たちは無比無双の士(つわもの)たちでありました。日本人以外のどの民族も、祖国救済のために捨身を決意したこれほど多くの志願者を見いだしえなかったでありましょう。千五百隻もの艦船からなる超巨大艦隊の、その舷側にまで達せんと、二時間半の飛行をかさねて、さらに、猛き若武者の肉弾を八つ裂きにせんと待ちかまえる雲霞のごとき敵戦闘機群のなかへと、突っこんでいかなければならなかったのです……。

 アメリカ相手にこのような戦争を企図するとは、戦争指導者のなんたる狂気であったかと考えるのがいまや世間の常識です。しかし、出撃にさいして、若き特攻隊員たちが書き残した手紙を読んでみられよ。戦争そのものについて、彼らはみだりにも批判がましいことを言わず、ただこう言っているのです。「日本の無窮のために私は命をささげます」と。何事もないかのように若者たちは写真を撮らせました。澄み切った表情で、時には、楽しそうに。いよいよ離陸です。見送りに立つ女学生たちは、さながら新嘗祭(にいなめさい)のときのように手にした榊の小枝を、千切れるほどに振っては、万歳々々を叫ぶのでした。パイロットたちは、開間岳の上を掠め飛びながら、これに敬礼します。明け暮れ眺めたこの山を、富士山に、いや、日本そのものに見立てて。それから二時間あまり、空と海の間での孤絶。ひたすら、心に、敵艦体当たりの必勝を期して。だが、大抵の場合は、あえなく空中で撃破されてしまうのでありました。五体引き裂かれて。血は、肉は、空に散り、海に散り、海は、かすかに一点、朱に染まって——群青の波間に。

 離陸して二時間。まかり間違って帰ろうとしても、その燃料はないのです。死は、いまや須臾(しゅゆ)の間にあり、顎(あぎと)を開く。迫りくる「大死一番」を前に、恐怖と激昂の混淆(こんこう)。が、これを最後とばかり、ひたすら技術に精神集中して。対空射撃をかわし、敵戦闘機をかわし、敵艦に狙いをつけ、いよいよ突っこみの照準を合わせ、そして、断じて震えないこと。俺は一人ではない。操縦桿を握る手は、日本を創った先人のすべてが支えているのだ。震えてなるものか。日本さえ生き延びてくれたら、俺の死なんて、どうだっていいんだ。涙一滴浮かべず……意志は張り……己を越え……神々を思い……杜なかの祖廟を思い……対空射撃は天空を鉤裂き……一斉にこの小飛行機に殺到し……そこでは未熟な子供が泣くまいと目をこらし……空は吠え……空は真っ青……空は真っ赤……お母さん!

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