【現代文】GHQ焚書「敗走千里」より支那軍の実態

2017.01.26 Thursday 02:15
くっくり



 この戦争の初め頃は、誰も今ほどこの斥候*1に出るのを嫌がりはしなかった。嫌がるどころか、古くから兵隊をやっている者どもはそのほとんど全部が、その斥候を志願したのだった。この分隊から下士斥候が出るという時など、それの参加志願者で押すな押すなの騒ぎだった。
 「分隊長殿、今度はわしをつれてって下さい」
 「馬鹿! お前はこの前の時に行ったじゃないか。今度は俺だ。」
 そんな始末だから、洪傑(ホンチェ)*2としても斥候の人選に困るようなことはなかった。たくさんの志願者の中から気に入りの者だけを抜き出せばいいわけだった。
 下士斥候はたいがいの場合、五名か六名だ。それが揃っていざ出発という場合、彼らはにやりと何か意味ありげな微笑を交わす。陳子明(チェンツミン)のごとき、わずか一ヶ月ほど前から強制徴募されて来た新兵には、その微笑が何を意味するものか、初めは全然判らなかった。
 が、二時間ほどして、意気揚々と帰って来た彼らを見て、新兵たちは初めて、彼らが何故にあの危険極まる斥候を志願するかが解った。彼らは実におびただしい種々雑多な戦利品をぶら下げているのである。主に、時計とか指輪、耳飾り……といったような、小さくて金目のものだが、中には、重いほどそのポケットを銀貨でふくらまして来るものがある。
 ある一人の兵が持っていた耳飾りのごとき、現に、たった今まである女の耳にぶら下っていたものを無理に引きちぎって来たからだろう、血痕がにじんでさえいた。しかもその兵の、無智、暴戻(ぼうれい)、殘虐を象徴するかのごとき、ひしゃげた大きな鼻、厚く突き出た大きな唇、鈍感らしい黄色く濁った眼……その眼が何ものをか追想するようににたりにたりと笑い、厚い大きな下唇をなめずり回している顔を見ていると、陳子明の胸には、何かしら惻々(そくそく)とした哀愁が浮んで来てならなかった。あの血痕の滲んだ耳飾りと関連して、何かしら悲惨なことが行われたような気がしてならないのだった。
 斥候に行った連中は、お互いに何か探り合うような視線を交して囁き合っている。
 「おい、張開元(チャンカイユェン)! 貴様それだけか?」
 ポケツトをざくざく銀貨で言わしている男が言った。
 「うん、これだけよ……でもなァ、よかったぞう」

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