【現代文】GHQ焚書「敗走千里」より支那軍の実態

2017.01.26 Thursday 02:15
くっくり


 退却軍の渦の中に揉まれ続けた陳は、李とはぐれてしまいます。督戦隊員らしい者4〜5人が無理やり彼女を強奪していったのです。(p.306-313)

 何とか生き残った陳子明。彼はこんなことを思います。 

 陳子明は別に軍官学校の出身でもなければ、特別に軍隊生活を志望して、戦闘方法とか軍略とか言うことに大して造詣のあるわけではない。が、最近の少しばかりの戦争の経験によって、自分たちの国の軍首脳部が現在重大な過失を犯しているように思えてならないのだ。その過失と言うのは、この戦争の始まる前、我々の軍隊はなぜ東洋軍と同じような、あの恐ろしい威力を持つところの野砲とか、野重砲のようなものを用意しなかったか――と言うことである。
 敗走に次ぐに敗走を以(も)ってする近頃になって、自分たちのちょくちょく耳にする軍首脳部のお題目は、「長期抗日戦」というそれであり、「我々は最初から長期抗日戦を覚悟し、日軍を奥地に誘導し、以って彼らを奔命に疲らせ、殲滅(せんめつ)するのは策戦に出づるのだ」と言うそれである。
 が、それが、事実とするなら、我々の軍隊は尚更、野砲、野重砲のごとき威力ある武器を最初から用意しなければならなかったのだ。なぜと言うのに、奥地へ日軍を誘導すると言うからには、最初から現在やっているような野戦が覚悟だったはずだ。野戦において、機銃や迫撃砲が、野砲、野重砲の敵ではないことは戦わぬ前から分っているはずだ。それだのにそれらのものを用意しなかったということは、我々の軍首脳部は上海の市街戦において日軍を撃退する――と言う一本立ての策戦しか立てていなかったことを暗黙の裡(り)に白状しているのだ。
 確かにそれに相違ない。煉瓦(れんが)やコンクリートの高層建築物の密集している市街戦においては、野砲や野重砲は確かに使いものにならない。そんなものよりも、機関銃や迫撃砲、手榴弾の方が遙(はる)かに効果を挙げ得るからだ。
 その上海において、日軍を引きつけ、引きつけ、トーチカからの機銃掃射によって日軍を消耗し、殲滅するという策戦がもし成功したならば、彼ら国軍首脳部は確かに先見の明ありと言って誇ってもいいが、その唯一の策戦が敗れ、失敗した以上、戦いはそれを以って打ち切りとすべきだ。戦っても絶対に勝つ見込みはないからだ。
 「長期抗日戦」――
 そんなものは、蒋介石一族、親露派、英米派の失敗の跡をごまかそうというこけ威(おど)かしにしか過ぎないものだ。要するにそれは、政権に恋々(れんれん)とした、彼らの保身延命策にしか過ぎないものだ。

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